あいあいのブログ

ヲタクの日々

村田紗耶香『生命式』

20200123読了。

 「コンビニ人間」で芥川賞を獲った作家の短篇集。

 人が死んだ時「生命式」と称してその人を参集者で食べ、そこで出会った男女がセックス(この世界では受精という)をし、死から生を生み出すという表題作、死んだ人間を素材としてインテリアやファッションに仕立てて楽しむ世界を描いた「素敵な素材」。その他どれも、普段僕らが当たり前と思っている倫理や常識、正常と異常の線引きをそろそろと融解させ、異様な世界に自然さや美しさを感じさせる作品ばかり。「生命式」末尾、海辺で大勢の人影が一斉に受精をしているシーンが美しく浮かび上がりうっとりした。

 最後の三作が圧巻で、「街を食べる」という、主人公が都会の中で雑草を探して食べることに目覚めていく作品の中の「空腹を抱えて視線を這わせると、世界は記号の鎧を取り去って本来の姿を現した。私の水色のスニーカーは、記号的意味を越え、歩道をまたぎ、どこまでも踏み込んでいくことができた」という一節や231頁の文章に文学的感銘を受けた。

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 どうも僕は、やや異様な世界を描く女性作家の短編が好きみたい。一昨年に読んだ藤野可織さんの『ドレス』と同じような感銘を受けた。

 この二人、要注意や。